2021年1月16日、17日で大学入学共通テスト第1日程が行われました。
受験生のみなさん、お疲れ様でした。
昨年もやりましたが、大学入学共通テストの国語の詳細解説記事をあげていきます。
今回は第一問の評論文です。
- 概要
- 設問構成
- 問1 漢字の知識 各2点
- 問2 傍線部A「民間伝承としての妖怪」とは何か? 7点
- 問3 傍線部B「アルケオロジー的方法」とは何か? 7点
- 問4 傍線部C「妖怪の『表象』化」とは何か? 7点
- 問5 新傾向(共通テストらしい問題)
概要
問5の(ⅲ)を除いて、センター試験の問題と大差ないなというのが第一印象です。
問題文は香川雅信『江戸の妖怪革命』から出題されました。
「妖怪」に対する考え方が、時代とともにどのように変化したかがメインテーマです。
従って、本文中で気を付けるべきは各時代ごとの「妖怪観」の特徴です。
順序立てて説明されていますので、特徴はつかみやすかったのではないでしょうか?
また、問5の(ⅰ)を先に見ておけば、段落ごとの要約がほとんどしてありましたので、読解する際のヒントになったかと思います。
問題冊子全体をさらっと確認している人には、簡単だったかもしれませんね。
また、本文では、「」がついた語句が多く登場していました。
「」をつける=辞書の意味に加えて、筆者が特別な意味を込めたい言葉ということです。
前後の文章から、きちんと理解できていたでしょうか?
設問構成
問1は漢字の問題。これはセンター試験から変わらずでした。
しかし、選択肢がセンター試験の5択から4択に減っていました。
問2~4は傍線部の説明問題。語句の言い換えがきちんとできることが肝要です。
問5は本文の理解が試される問題でした。出題の意図は大学入学共通テストが目指していたものと近いと思います。
特に、(ⅲ)は芥川龍之介の『歯車』が引用として出てきています。
この問題はあまり本文とのリンクはないので、資料を読み込む必要がありました。
それでは、詳細解説に移ります。
問1 漢字の知識 各2点
難易度はセンター試験と同様です。
配点も変わっていないので、落としたくないですね。
(ア)民俗 ①所属 ②海賊 ③良俗 ④継続
(イ)喚起 ①召喚 ②返還 ③栄冠 ④交換
(ウ)援用 ①沿線 ②救援 ③順延 ④円熟
(エ)隔てる ①威嚇 ②拡充 ③隔絶 ④地殻
(オ)投影 ①投合 ②倒置 ③系統 ④奮闘
問2 傍線部A「民間伝承としての妖怪」とは何か? 7点
第3段落が解答の根拠にピッタリでしょう。
第3段落1行目に、
妖怪はそもそも、日常的理解を超えた不可思議な現象に意味を与えようとするミンゾク的な心意から生まれたものであった。
とあります。
また、3行目~5行目で
ところが時たま、そうした日常的な因果了解では説明のつかない現象に遭遇する。それば通常の認識や予見を無効化するため、人間の心に不安と恐怖をカンキする。 このような言わば意味論的な危機に対して、それをなんとか意味の体系のなかに回収するために生み出された文化的装置が「妖怪」だった。
とあります。
これらをわかりやすい言葉に変えるのであれば、
【非日常の理解不能な現象に「妖怪」という意味を与えることで、通常の理解の範囲に収めようとすること】です。
もっと崩した考え方をするのであれば、妖怪ウォッチを想像してみましょう。
不可解な出来事に対して、「妖怪のせいだ!」と決めていませんでしたか?
横暴な言い換えになりますが、そのようなものだと思ってください。
これらを踏まえると、正解は①になります。
②は「フィクションの領域においてとらえなおす」が傍線部直前の「切実なリアリティをともなっていた」と異なる
③は「未来への不安」が根拠部分と関係なし
④は「意味の体系のリアリティ」が根拠部分と関係なし
⑤は「人間の心に生み出す」が異なる。無理やり理解しようとした結果が「妖怪」なのである。
問3 傍線部B「アルケオロジー的方法」とは何か? 7点
これは比較的難しかったのではないでしょうか?
「アルケオロジー」は第7段落以降に詳しく書いてあります。
まず第7段落1行目に、
アルケオロジーとは、(中略)フーコーの言うアルケオロジーは、思考や認識を可能にしている知の枠組み(中略)の変容として歴史を描き出す試み
とあります。
また、第8段落1行目から、
このエピステーメーの変貌を、「物」「言葉」「記号」そして「人間」の関係性の再編成として描き出している。
とフーコーを例に出して紹介しています。
今度は筆者の言葉で、第9段落2行目から、
この方法は、同時代に存在する一見関係のないさまざまな文化事象を、同じ世界認識の平面上にあるものとしてとらえることを可能にする。
とあります。
つまり、「アルケオロジー的方法」というのは、
知の枠組みの時代による変容を記述する
ということです。
これらに合致する選択肢は②ですね。
①は「考古学の方法に倣い」としている部分がフーコーの意図するアルケオロジーと異なる。
③は「要素ごとに分類」が上記引用の筆者の狙いと異なる。
④は「ある時代の文化的特徴を社会的な背景を踏まえて分析し記述する」が【時代による変容】を踏まえていないためNG
⑤は「大きな世界史的変動として描き出す」ことは、「アルケオロジー的方法」を行うことによって可能になることであり、設問で聞いている「アルケオロジー的方法」そのものではないので、NG
⑤は騙された人が多い気がします。
問4 傍線部C「妖怪の『表象』化」とは何か? 7点
第11段落~の内容が重要です。
第11段落では、中世における妖怪の役割を紹介しています。
すなわち、妖怪は神霊からの「言葉」を伝えるものという意味で、一種の「記号」だったのである。
次に、第12段落で近世の妖怪について記述があります。
近世においては、「記号」は人間が約束事のなかで作り出すことができるものとなった。 これは、「記号」が神霊の支配を逃れて、人間の完全なコントロール下に入ったことを意味する。こうした「記号」を、本書では「表象」と呼んでいる。
また、第14段落に
「表象」は、意味を伝えるものであるよりも、むしろその形象性、視覚的側面が重要な役割を果たす「記号」である。(中略)そしてキャラクターとなった妖怪は完全にリアリティを失い、フィクショナルな存在として人間の娯楽の題材と化していった。
とあります。
神霊の働きを告げる「記号」(コントロール不可)から、
人間の約束事のなかで作り出すことができる「記号」(コントロール可)=キャラクターになったため、
娯楽の題材に変化した。
ズバリ、正解は②です。
①は「人間が人間を戒めるための道具になった」が本文と異なる。
③は「人間世界に実在する」がリアリティのためNG
④は紛らわしいですが、「きっかけ」ではなく、「帰結(結果)」です。
⑤は「人間の性質を戯画的に形象した」が本文と異なる。
④と悩んだ、解答した人が多かったのではないでしょうか?
問5 新傾向(共通テストらしい問題)
(ⅰ)段落ごとの要約 5点
文章をきちんと読めば解けると思いますので、割愛します。
正解は④です。
(ⅱ)本文の言い換え 各3点
Ⅲは問4の解説を参照していただければ、③しかないとわかるでしょう。
Ⅳは、第15段落と第16段落が解答の根拠となる段落です。
第16段落に
ところが近代になると、この「人間」そのものに根本的な懐疑が突きつけられるようになる。人間は(中略)容易に妖怪を「見てしまう」不安定な存在、「内面」というコントロール不可能な部分を抱えた存在として認識されるようになったのだ。
とありますので、④が正解ですね。
(ⅲ)新しい傾向の問題 8点
芥川龍之介の「歯車」の一節を読み、内容を読み取る問題でした。
本文とのリンクする部分が非常に少ないので、難しかったのではないでしょうか?
ドッペルゲンガーの説明と、引用の文章をリンクさせると、解答は②になります。
以上です。
最後の問題が頭を悩ませていたのではないでしょうか?
次回は第2問の小説を解説します。
ぜひご覧ください。