今回は、第二問<小説>について解説を行っていきます。
第一問<評論文>の解説はこちらからどうぞ。
- 概要
- 設問構成
- 問1 語句の意味 各3点
- 問2 傍線部A「擽られるような思」とはどんな気持ち? 6点
- 問3 傍線部B「何だかやましいような気恥しいような、訳の分からぬ一種の重苦しい感情」の説明 7点
- 問4 傍線部C「私」が「妻君の眼」を気にする理由 8点
- 問5 傍線部D「私」の行動の説明 8点
- 問6 新傾向(共通テストらしい問題) 各6点
概要
問題文は加能作次郎『羽織と時計』から出題されました。
文章自体読みやすかったため、そこまで「苦戦した!」という印象はないのではないでしょうか?
設問もセンター試験と同様の形式がほとんどでした。
しかし、問6は資料をもとに、作品を多角的かつ批判的に見ることが求められたような問題が出題されました。
急な変化球が来たために戸惑った方も多いと思います。
小説の解き方は昨年のセンター試験<小説>で語っておりますので、ご参照ください。
設問構成
問1は語句の本文中の意味を答える問題。センター試験と変わらずでした。
問2~問5は小説の王道的質問に対して答える問題。
問6は新傾向でした。宮島新三郎「師走文壇の一瞥」が資料として提示され、問題文に対する批評を踏まえて答えを出す問題です。
評論文と同じく、最終設問でひねった問題が出ました。
それでは、各設問詳細解説にいきましょう。
問1 語句の意味 各3点
難易度はセンター試験同様です。まずは辞書的な意味から選択肢を絞り、文章の前後との繋がりから解答を行う問題でした。
今回の傍線部は聞きなれない言葉ではなかったと思います。
(ア)術もなかった
これは「打つ手なし」や「どうすることもできない」と言い換えできます。
(イ)言いはぐれて
全体としては聞いたことがあまりないかもしれませんが、「はぐれて」の部分に注目してみましょう。
「はぐれる」という言葉の意味は、
-
1 連れの人を見失って離ればなれになる。「人込みで一行に―・れる」「群れに―・れた子羊」
-
2 その機会をのがす。「仕事に―・れる」
-
3 動詞の連用形に付いて、…する機会を失う意を表す。…しそこなう。…しそびれる。「飯を食い―・れる」
です。*1
今回は、2の意味ですね。
(ウ)足が遠くなった
これはよく耳にするのではないでしょうか?
「今までよく行っていた場所に行かなくなる」ことです。
ここは正直言ってサービス問題だと思いますので、全問正解したいですね。
問2 傍線部A「擽られるような思」とはどんな気持ち? 6点
まずは傍線部の言葉を整理してみましょう。
「擽られる」とはムズムズした感じですよね。
しかしそれだけでは答えは出ません。
では、なぜムズムズした感じになっているのか?
【原因・理由】→【心情】→【発言・行動】
を考えれば原因は傍線部より前にあるはずです。
すると、問1で解答した(イ)の傍線部付近にいいヒントがあります。
妻は、私がその羽織を着る機会のある毎にそう言った。私はW君から貰ったのだということを、妙な羽目からつい言いはぐれて了って、今だに打ち明けていないのであった。
また、傍線部A直後に、
そんなことを言って誤魔化して居た。
とあります。
つまり、立派な羽織だと妻に言われるが、実はW君にもらったものだと打ち明けられていないため、ムズムズした気持ちになっている。
ということがわかりますね。
この3点をきちんと踏まえているのは、③です。
他の選択肢では要素が欠けていたり、傍線部の「擽られる」を踏まえていない選択肢ばかりなのですぐに解答できたと思います。
問3 傍線部B「何だかやましいような気恥しいような、訳の分からぬ一種の重苦しい感情」の説明 7点
傍線部の説明問題ですので、言い換え問題ですね。
今回の傍線部で一番重要な語句は、「重苦しい感情」です。
傍線部と近い内容が記載されているのが、41行目です。
私の為に奔走して呉れたW君の厚い情誼を思いやると、私は涙ぐましいほど感謝の念に打たれるのであった。それと同時に、その一種の恩恵に対して、常に或る重い圧迫を感ぜざるを得なかった。
とあります。
「私」はW君から羽織と時計という身につける中で最も高価なものが2つともW君から送られています。
その恩恵に対して「重い圧迫」を感じているわけですね。
これらを踏まえると、①が正解です。
これ以外の選択肢は、引用部分の説明からずれています。
この問題もきちんと根拠となる箇所さえ見つけることができれば正答するのは難しくないので、正解しておきたい問題です。
問4 傍線部C「私」が「妻君の眼」を気にする理由 8点
この問題も小説読解のセオリー通りいきましょう。
傍線部より前のヒントは
46行目~
W君は、その後一年あまりして、病気が再発して、遂に社を辞し、いくらかの金を融通して来て、電車通りに小さなパン菓子屋を始めたこと、自分は寝たきりで、店は主に従妹が支配して居て、それでやっと生活している(中略)一度見舞旁々訪わねばならぬと思いながら、自然と遠ざかって了った。
とあります。
傍線部以降では、57行目~64行目までが「私」が「W君の妻君」を恐れる理由について書かれています。
これら2か所のヒントを活かして選択肢を見ると、正解は①だとわかります。
他の選択肢では、「W君の状況」や「W君の妻君を恐れる理由」が正しく表現されていません。
※余談ですが、皆さんも学校や塾、習い事などを一定期間休んでしまうと、「行きたくないなぁ」と思いませんか?
「もしかしたらずる休みだと思われているかもしれない。陰口を言われているかもしれない。休んだ理由をものすごく聞かれるかもしれない。」と被害妄想をしてしまいませんか?
「私」のこう考えてしまう気持ちを「わかるなぁ…」と思って読んでしまいました。
問5 傍線部D「私」の行動の説明 8点
67行目~
私は何か偶然の機会で妻君なり従妹なりと、途中ででも遇わんことを願った。
とあります。
さらに、傍線部直後に
実はその折陰ながら家の様子を窺い、うまく行けば、全くの偶然の様に、妻君なり従妹なりに遇おうという微かな期待をもって居た為であった。
とあります。
つまり、
【偶然を装って】会えることをうっすら期待しているのです。
この要素がきちんと描かれている選択肢は⑤です。
しかし、「今更妻に本当のことを打ち明けることもできず」はダイレクトに根拠になる部分を探すことができません。
なぜなら、「私」が妻に打ち明けたという記述がないからです。
つまり、前半で羽織のお話がありましたが、「あれ以降もきちんと打ち明けていないまま過ごしている。」という読み方ができます。
この問題は、消去法でもよいかと思います。
問6 新傾向(共通テストらしい問題) 各6点
今までの問題と打って変わって、共通テストの目指した姿と言えそうな問題です。
宮島新三郎「師走文壇の一瞥」が設問の中心となりました。
基本的には資料から解答を出す問題ですので、本文と行ったり来たりしていると混乱し、よくわからない答えを出してしまうかもしれませんね。
(ⅰ)二重傍線部の説明
これはすんなり解けた方が多いのではないでしょうか?
二重傍線部直前が解答の根拠です。
④が正解です。
(ⅱ)評者とは異なる見解はどれか?
これは、「誤っているものを選べ」問題です。
こういう問題では、合っている選択肢には「なんとなく合ってそうだな…」と明確に選択肢を切ることができないようにできています。
したがって、「確実に違うぞ!!!」とみなさんのセンサーが働くまで、解答を出さないでください。
このような問題は私立大学でも出題されますので、待つことを恐れないでください。
今回は、④が正解です。
④の後半にある
「私」が切ない心中を吐露していることを重視すべきだ
が、(ⅰ)で解答した内容と全くかみ合いません。
「もっとW君の周りのことを描いてよ!!!」と言っていた評者が、(ⅱ)になると
「もっと『私』の心情を重視すべきだ!!!」と言っている
これはないですよね。
つまり、(ⅰ)で正解を出しやすくしている分、(ⅱ)で考えさせる問題を出したのではないでしょうか?
以上です。
冒頭でも記述しましたが、第一問の<評論文>と同様に、最後の設問以外はセンター試験を踏襲した問題でした。
来年はもっと変わるのか?それとも今年と同じなのか?
気になります。
次回は、超難問ともいえる、第三問<古文>を解説します。
*1:goo辞書逸れる(はぐれる)の意味 - goo国語辞書
より